喜劇的な怪異譚!泉鏡花の「絵草紙 月夜遊女」/読書記録

読書石川, 感想・レビュー

先日、金沢にある文化施設「泉鏡花記念館」へ伺いました。
金沢三文豪のひとり・泉鏡花を深く知ることのできる施設です。

実は泉鏡花の作品を一度も読んだことがなかった私ですが、本施設でとても興味を持ったので、何かしら読んでみようと思った矢先。

泉鏡花の絵草紙月夜遊女

図書館にて発見!

ちょっと物々しい雰囲気漂う真っ黒の表紙。
鮟鱇のイラストが印象的な「絵草紙 月夜遊女」を読んでみました。

泉鏡花の小説「絵草紙 月夜遊女」

泉鏡花の作品・絵草紙 月夜遊女
絵草紙なので、挿絵が入っています。絵本作家の山村浩二さんによる挿絵です。
そしてアメリカ生まれの日本文学教授、アダム・カバットさんによる校注や解説が行われている書籍です。

本の半分ほどが挿絵付きの本文。
その後に、注釈付きの原文(本文と同じ内容)が記され、最後に解説があるという構成で作られています。

本作で書かれている文章は文語体
そのため読むのは少し難しく、苦手な方は最初の1ページで頓挫してしまうかも。

私も文語体は全く得意ではないのですが、挿絵によってイメージが沸きやすく、なんとか読了しました。
冒頭に全登場人物の紹介もイラスト付きであるため、混乱しかけたら戻って再確認できるのがありがたかったです。

あらすじ

自分の影も怖がってしまうような臆病な性格の男、
そして、ズルイことを考えるけどどこか憎めない男、音吉

この二人が月の綺麗な夜中、山道を走っていました。

吉は魚籠の天秤を運びながら、大きなアンコウを運ぶ音吉にひたすら話しかけますが、なぜか音吉は喋りません。
明るい月に照らされてはいるものの、辺りは暗闇。怖がりな吉は暗闇の静寂が嫌なので、音吉に対して返事を促します。

長い沈黙を破り、音吉は口を開きました。「ちょっと考え事をしていた」と。
そして「アンコウの肝は高級品だから、自分のものにしたい。取り出した後、アンコウ本体のお腹に草鞋をつめて売ればバレない」という良からぬことを言い出します。

さらに音吉は怖がりの吉を脅かしてやろうと、おどろおどろしい雰囲気で、アンコウの肝の取り出し方を生々しく話し始めます。
恐ろしくなった吉は、音吉を置いて一目散に逃げ出してしまいました。

一人残された音吉。
吉を怖がらせるために言ってみたものの、ひとりになると自分も怖くなってしまいます。
しかし一度言ったことを止めるのも悔しいと思い、一人でアンコウの肝を取り出すことに。

そしてアンコウの口に手を入れて引き出すと、なんとアンコウの肝がまさかの美女になってしまいました。

「私を一緒に連れて行って」という美女(アンコウの肝)。

果たしてこの美女は一体……

本を読んだ感想

アンコウの肝が美女になる」という衝撃的なあらすじを見て、一気に興味を惹かれた作品。
アンコウではなく、アンコウの肝というのがキモ?

アンコウの肝から生まれ変わった美女の呼び方が「お蘭の方」「お部屋様」と呼ばれるのですが、登場人物紹介にしっかり書いてくださっているので助かりました。
本文だけ読んでいると、人によって、場面によって呼び方が変わるため、何の話をしているのかサッパリわからなかったと思います。

怪奇的なお話に、赤と黒の二色刷りで描かれた挿絵の雰囲気がとても合っていました。
怖いところと、ちょっとクスっと笑ってしまうところと。

作中に安達ヶ原の鬼婆伝説のお話が少し出てきます。オカルトやホラーが好きな方は、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
苦手な方には向かない表現があるので、知りたい方はこちら(Wikipedia)をご覧ください。女性は特に、ちょっと閲覧注意です。

アンコウの肝を取り出す際、音吉が吉を怖がらせるために話していたのがこの伝説。
自分が知っている話が出てくると、難しい文章でも取っつきやすくなってきます。

そういったワケで、アンコウの肝を取り出すところはちょっとおどろおどろしさがあり、生々しい雰囲気が漂ってきます。

ただ、その後に「なんで美女が!」とちょっとクスッと笑ってしまったり。
全体的には妖気的な恐ろしいストーリーなんですが、登場人物のキャラクターがあってか、ちょっと喜劇的な雰囲気のお話でした。

描写が細やかでリズムよく、脳内で音読してみると、まるで落語のような印象も。

泉鏡花の創り出す不思議な世界の一端を堪能できました。
情景描写が色濃く描かれているのですが、文語体を理解して読めたらもっと堪能できるだろうなと思い、ちょっと勉強したくなりました。

怪奇や妖怪のお話が好きなら

怪奇や妖怪のお話がお好きな方にオススメの本です。
私は水木しげるや京極夏彦が大好き。なので、すごく馴染みやすいお話でした。

どうしても文語体なので難しいところもありますが、挿絵のおかげでイメージは浮かびやすいです。
私は小説は1ページ目から読んでしまうタイプなので、読み始めたときに注釈付きの原文があることに気付きませんでしたが、最初から注釈を見つつ読むのも良いと思います。

シーンの切り替わりのところは時系列が前後するので、ちょっと混乱してしまうかも。
文語体に惑わされず気にせず読み進めたら、ちゃんと後から繋がってきます。

ちなみに本作「絵草紙 月夜遊女」は、泉鏡花の作品の中では割とマニアックな作品みたい。
メジャーな作品も今度読んでみたいです。