ミステリー小説「どんどん橋、落ちた」/読書記録

2019年4月19日読書感想・レビュー

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先日、金沢駅前にあるミステリーカフェ「謎屋珈琲店」にお邪魔したときのこと。

店内にあったたくさんのミステリー作家さんのサインを拝見して、元々ミステリーが大好きだった私は大興奮!

店内にはミステリー作家さんたちのサインズラリ

館内で起きる事件をテーマにした「館シリーズ」で有名なミステリー作家・綾辻行人氏のサインが私の席から一番近くて、久しぶりに読みたくなりました。

ということで……

どんどん橋、落ちた
タイトル:どんどん橋、落ちた
著者:綾辻行人
発行:講談社

綾辻行人さんの「どんどん橋、落ちた」!
綾辻さんの作品はいくつか読ませていただいていますが、こちらは今回初めて。一気に読んでしまいましたよ。

小説「どんどん橋、落ちた」

綾辻行人さんの作品、私は館シリーズ数作と「殺人鬼」を読んだことがあります。

難しい言い回しなど使用されず、とても読みやすくてわかりやすい文章なので、どんどん物語に入り込んで読み進められるんですよね。そして緻密な叙述トリックに脱帽!
初めて「十角館の殺人」を読んだときは衝撃を受けたことを今でも覚えています。

そんなわけで、期待を込めながら「どんどん橋」を読み始めました。
5つの短編が収録されているのですが、いずれも作者である綾辻行人氏が主人公で、綾辻氏の元に持ち込まれるミステリーを解いて「犯人当て」を行うというストーリー

どの作品も想像の斜め上をいく結末で、面白おかしく読むことができました。
それぞれの短編について感想を記します。

  • どんどん橋、落ちた
  • ぼうぼう森、燃えた
  • フェラーリは見ていた
  • 伊園家の崩壊
  • 意外な犯人

以下、犯人に関するネタバレは避けていますが、察してしまう・ヒントになるような記述があるかもしれません。
未読の方は念のため注意です!

どんどん橋、落ちた

「犯人当て」の原稿を持ち込んでくるU君。綾辻氏はU君のことをうっすら覚えているような気がするけど、ハッキリ思い出せない。おそらく大学時代のミステリー研究会の後輩かな? と思いながら家に上げて、「犯人当て」に挑戦することに。

犯人当ての概要は【崩落して誰も渡れなくなった「どんどん橋」の向こう側で起きた殺人事件、誰がやった?】というもの。
「犯人当て」ではいくつかのルールがあり、たとえば「地の文は絶対的なもので、嘘はない」とか、「犯人以外の証言に嘘はない」とか。

そんな中で、「この道を短時間で往復するのは不可能である」と地の文で書かれていたり、「絶対に犯人ではない」と地の文で言われた登場人物が「ここを通った人は絶対にいない」と証言したりで、どの人物も犯行は不可能としか思えない状態に。

綾辻氏もお手上げ状態。U君はしたり顔で、解決編に進みます。

解決編

結末は驚愕のものでした。

……えーーーー! そんなのあり!? と、多分このまま普通に進んじゃうと、「なんて無茶苦茶なんだ!」とイラっとしてしまうような結末。

ですがなんと、ここで綾辻氏も不満を爆発!

姑息だ、こんなのルールに則ってない! フェアじゃない!! と。

そこで私の「イラっ」は「クスっ」に変わります。
主人公である綾辻氏に自分の気持ちを代弁してもらいますが、U君は悪びれる様子もなく、「でもこう書いてあるじゃないですか!」「ルールは絶対に守っています」と。
かなり論理的な説明で、私も読み返してみても「あ、本当だ」と納得せざるをえない状況に。伏線はしっかり張られているんですよね。

ここで私は「うわー、すごいなー」と脱帽するのですが、綾辻氏はそれでも納得しておらず、「確かにそうだけど……」とモヤモヤなご様子。

そして、次の短編へ進みます。

ぼうぼう森、燃えた

「どんどん橋、落ちた」から1年後。再びU君が綾辻氏の元へ、新たな原稿を持って訪れます。しぶしぶ読む綾辻氏。

なんと今回の登場人物は犬中心! ぼうぼう森に棲みつく野犬たち。
犯人当ての概要は【燃えるぼうぼう森の中で起こった殺犬事件、犬をあやめたのは誰だ?】というもの。

「なんだこの話は!」と言いながらも、前回の問題を念頭に置きながら解こうとする綾辻氏……と、私。笑

私は問題編を読んだあと、割と早い段階で「犯人はこいつだ!」と分かった気分に。
ニコニコしながら解決編へ進みました。

解決編

綾辻氏も私と全く同じ回答を出され、「よし、やっぱり!」と思ったのも束の間……

うわーーー、そうきたか! とまたひっくり返る展開です。

綾辻氏は今回も「ひどすぎる!」と不満爆発ですが、私はもう最初から「なるほど!」「確かに!」と納得。気持ちいいくらいに騙されました。

納得できたのは、ちょっと気にかかるところもあったから。違和感のある部分がしっかりあって、そこに焦点を当てれば、気付くことはきっとできた。
しっかり読めば、ちゃんとわかるようになっているんですよね。

……一発でわかった人はいるのかな? という感じですけど。笑

フェラーリは見ていた

3つめの「フェラーリは見ていた」にはU君は出てこず、U山さんのお家で飲み会を開いている時のお話です。
U山さんの奥さん、K子さんが「近くでこんな事件があった」と綾辻氏に持ちかけた話が、今回の犯人当て。

犯人当ての概要は【フェラーリに乗ることで有名なおじいさんのペット(猿)を誰が殺害した?】というもの。
K子さんが友人から詳しく聞いた話を元に、事件を探ります。

前回までの二作は完全に「作中作」で突拍子もない展開がありましたが、今回は「作品の中で実際に起きた事件」ということで、ちょっと真面目な印象を受けるミステリー。

しかし誰にも犯行は不可能……

酒席で犯人当てなどできるはずがないと、綾辻氏も一通り考えたところですぐに諦めてしまいます。

解決は後日

翌日の帰り道、とあるものを見かけたことで謎は解決!

なんとU山さんの酔っ払いのせいで、見事に綾辻氏も、読んでいる私も、ミスリードさせられていました。
これまた読み返すと「あ〜、本当だ」と。

しかし犯人はまたまたさらに意外な展開で……
オチに関しては、クスっとなりました。

それにしてもタイトルが見事だったな〜。

伊園家の崩壊

こちらは設定がずいぶんぶっ飛んだ、攻めたお話でした。笑

日曜日の夕方に毎週見かける、あの国民的家族を彷彿とさせる登場人物たち。
「あちらの世界」の井坂先生が「こちらの世界」の綾辻氏に、事件の犯人を当ててくれという相談が舞い込んできます。

犯人当ての概要は【伊園家で起こった悲惨な事件の犯人は誰?】というもの。
今回のお話では綾辻氏は既に事件の真相を突き止めており、綾辻氏からの読者への挑戦状でした。

悲惨な運命を辿っている伊園家。始まりは数年前、母である常(ツネ)が、突然発狂してしまい人を殺めてしまったこと。常はその直後、自ら命を絶ちました。
事件のショックはあまりにも大きく、さらに補償問題などのために借金がかさみ、家計も苦しくなっていた伊園(いぞの)家。家族全員が、暗い人生を歩んでいます。
そんなときに多額の保険金がかけられていた笹枝が頸動脈を切られて亡くなっていて……しかし犯人では有りえない人たちの証言によって、現場が密室状態であったことが分かります。
また事件発覚直前には、ペットの猫も何者かによって殺害されていました。
同日に起きた、猫と笹枝の死。
「事件の解決を手伝ってほしい」と伊坂先生が綾辻氏にコンタクトを取ってきたのですが……

なんとも衝撃的な内容です。
作品の中扉には「連想される某家族とは無関係」の旨が書かれていますが、連想せずにはいられません。笑

解決編

この事件について私はひとつの大きなポイントを解くことはできたのですが、全体を解くことはできませんでした。
「よし、今度こそ犯人当たっただろー!」と思ったものの、答えとしては間違っていたのです。

設定はぶっ飛んでいますが、私は本書ではこの短編が一番ミステリー感が強くて好きでした。そして元々のモデルが頭の中にあるので、一番引き込まれました。

平和な明るい家族が連想され、あまりにも悲惨な末路を辿るため、「ミステリーうんぬんの前にこういうの無理!」という方も多いかもしれません。
私は昔SS小説にハマっていた時期があって、二次創作系に慣れていたから「これ大丈夫かいな〜」と思いつつ抵抗なく受け入れられたのかも。

意外な犯人

本書のラストは、再びU君の登場です。今度はU君、犯人当て作品は持ってきていませんが、代わりにビデオテープを持参。中身は綾辻氏原案のテレビドラマ「意外な犯人」というもの。
しかし綾辻氏はこのことを全く覚えておらず……ビデオを見て、テレビドラマの中で行われる事件の犯人当てをすることに。

概要は【「意外な犯人」というドラマの中で起こる事件の、犯人の名前は?】というもの。

解決編

前回に続いて、謎は解けたんです。謎としてはカンタンでした。

でもあくまで謎が解けただけ。解答はできませんでした。
作中の綾辻氏も全く同じ。

これまた結末を知って「あ〜、確かに!」となるミステリーでした。

短編にギュッと詰まった叙述トリック

さすが叙述トリックの天才・綾辻氏だなぁと思わせられる作品ばかりでした。

5つも短編が続くから、1つ2つと読み終えるごとにレベルアップした気になって「次は解けそう!」と思うんです。
それで新しい問題編を読みながら「分かった! これはこういうことでしょ!」なんていい気になるんですけど、結局どれもトリックがその想像の上を行くから、結局全敗に終わりました。

それにしても綾辻氏の文章はやっぱり読みやすいですね。
サクサク読めて、どんどん頭に入ってきて、ぐいぐい引き込まれます。

またミステリー小説への熱が上がる一冊でした。