心に沁み入る「室生犀星詩集」/読書記録

2019年12月21日読書金沢市,感想・レビュー

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先日、金沢三文豪のひとり室生犀星を深く知ることができる文化施設「室生犀星記念館」へ伺いました。

とはいえ作品は今まで一度も読んだことがなかったので、この機会に読んでみようと決意。

室生犀星石碑

室生犀星は小説も書かれていますが、館内で少しだけ読んだ動物詩集の優しい雰囲気に惹かれ、詩集を読んでみることに。
普段は物語を読むことが多く詩集に馴染みがない私ですが、「心に沁み入る」という感覚に納得。
ほんのり感じる切なさやもの悲しさに共感し、思わず息を吐いてしまう作品でした。

福永武彦編「室生犀星詩集」

今回手にしたのは、新潮文庫から出版されている、詩人である福永武彦氏が編集された「室生犀星詩集」。
こちらの裏表紙に書かれていた内容紹介は以下です。

“愛と土とを踏むことはうれしい"生後間もなく生母の懐ろを離れ、貧しい養家で育てられた犀星は、一人の生活人として自ら苦しみ、自ら求め、その感情を詩に託して赤裸々に告白し続けた。短い詩型に凝縮された抒情は、口語と文語との融和の上に生れた独特のリズムに乗って、詩を愛する人の心に静かに沁み入る。生涯に公刊された24冊の詩集から代表的な作品187編を収める。

内容紹介/「室生犀星詩集」福永武彦編

室生犀星の24冊の詩集から選ばれた、代表的な作品187編が収められている詩集です。

187編を選んだ福永武彦氏は、あとがきで「心苦しい仕事だった」と記されていました。
室生犀星の詩はざっと1300編ぐらいになるそう。本作品でその中から187編までに厳選しなければならないのは至難の業だったようです。
それはご本人が「うまくいっているかどうかは分からない」とおっしゃるほど。

そのため、室生犀星の詩が好きな方は、もしかしたらお気に入りの詩が入っていないかも知れません。

本書では、福永武彦詩が思う「若い人に向くような詩」を厳選されたそうです。

「詩の読み方」に戸惑う

意気込んで借りてみたものの、実は詩集を読むのは初めてだった私。
詩自体、小学校〜高校時代の国語の授業でふれたきりです。

そんな私が今回、本を開いて最初の4行の詩を読み……「詩って一体どんな気持ちで読めばいいんだろう?」「どうやって読むのが正解なんだろう?」と考えてしまう事態に。
本を閉じてGoogleで「詩 読み方」なんて検索するくらい、少し悩んでしまいました。笑

検索結果一覧画面にはあまり私の望む情報は見つけられず、それから数日、結局読み方はわからないまま。
室生犀星の詩は時代もあって文語だろうし、そもそも詩デビューには難しい作品だったかもしれないと、腰も重くなります。

それでもまず目を通してみよう。そんな気持ちで再び本を開きました。

ストーリー性のある小説でも、最初は難しくて意味がわからないような作品も、読み進めていくうちに理解が深まってくることはよくあることですから。

そんなわけで再びページを開き、読み進めると……
見開き1ページを読み終わった時点で惹きこまれてどんどん読み進めてしまい、あっという間に読了してしまいました。

「室生犀星詩集」を読んだ感想

詩ってリズムがあるから、さらさらと読み進められます。

また、全部文語体だと思っていたのですが、中にはほぼ口語体で、現代人の頭にもすんなり入ってくるようなものも多くありました。
一部「お→ほ」など、歴史的仮名遣いは使用されていますけどね。

哀しさや寂しさ

読みやすい詩の中で、まず一番に感じたのは、なんというか「哀しさ」でした。
室生犀星の詩には、「寂しい」という単語がたくさん出てきます。

セミの命ははかなく、くらげは秋になったら死んでしまうし、ナメクジは樹で凍ってしまうし。
小さな動物の儚さが各詩で表現されています。

そしてふるさとである金沢を想う気持ち。
出生が不遇で、生活も苦しい犀星が故郷を想う切なさが響いてきます。

金沢のまち

ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの。

犀星は金沢で生まれ、詩人になるべく上京しました。
ふるさとである金沢が舞台の詩もあります。

片町にしぐれが降り、犀川を覆う。

今石川に住む私にとって、よく知る、行ったことのある地が詩の中に登場すると、とても身近に感じます。
そして故郷を離れて移住した私にとっても、寂しくてたまに故郷を思い返してしまう気持ちは少し共感を抱きます。

室生犀星の一面や考え

哀しい詩だけではなく、犀星の考えや好みを垣間見るものもあります。

「愛の詩集」内の「女人に対する言葉」では、亭主関白そうな一面が。
掃除を好きになれ、うまいものを炊いて、よい母親になれ、偉い人になろうとするな、夫を神のように思え……など、タイトル通り女人に対する言葉が続きます。

この詩を読んでいる最中は、さだまさしの「関白宣言」が頭に流れていました。笑

この犀星の理想の女性と思いきや、世の女性たちに送られている言葉です。
こうすれば喜びの多い家族になり、世間を良くしてくれる……と。

女性の社会進出が進んでいる現代では、ちょっと受け入れられにくいかもしれませんね。

でも女性蔑視な印象をこの詩から受けないのが不思議なところ。
女性には「世の中を明るくしてくれる力がある」と教えてくれるからでしょうか。
読み終えた私の心にはいくつかの詩が特に響きましたが、この詩もそのひとつなんです。

それはきっと、少し思い当たることが個人的にあったから。
たとえば一家庭の中で、妻が夫を尊敬しない家族の話。

その家族ははたして幸せでしょうか?
蔑ろにされた旦那さんは、その様子を見る子供たちは、真っ直ぐな心を持つことはできるのでしょうか。

「夫を神のように」とまでは思わなくても、尊敬する気持ちは明るい家庭を築くために必要なことだと思います。
もちろん逆も同じですけどね。お互いへの尊敬あってこそ、思いやりがあってこそ、幸せな家庭になると思います。

詩に書かれた全体を現代に当てはめることはできなくても、ハッとさせられることはありました。

読み返したくなる詩集

お気に入りの詩集を持ち、読み返す人の気持ちがよく分かりました。
詩集って一度さらっと読むだけではなく、何度も読んでこそ「いいな」と思えるものですね。
実はこの感想を書くために、いくつかの詩を何度か読み返しました。
そしてその度、一度目に読んだときとは違うように捉え、違う感想を抱いたんです。

だから正直、詩の感想って難しい。
今こうして書いていても、きっとまた読んだとき、抱く思いは変わると思います。

でも裏表紙の内容紹介に書かれた「心に沁み入る」はすごく納得。

これを機に、犀星の他の詩も読みたくなります。そして他の方が書く詩にも、興味をもちました。
詩を今まで読んだことがないという方にも、良い詩集かもしれませんね。